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真珠と大女優の意外な関係

真珠と大女優の意外な関係

前回のコラムでは、ココ・シャネルが女性服で起こした「革命」によって、真珠が一気にコーディネートの要になったことを紹介しました。

シャネルは模造真珠と本物の真珠を混ぜ込んだロープ状のネックレスを使っていました。シックな黒のドレスに輝く白い真珠。誰が見てもベストな組み合わせともいうべきエレガントなコーディネートは多くの女性の心を掴みました。

ここで欠かせなかったのが日本の養殖真珠です。天然の真珠は高価で手が出ないという人たちも、気軽に手に入れることができます。しかも、シャネルの「革命」によって天然至上主義はなくなり、養殖でも模造品でも恥ずかしげなく合わせられるのです。

真珠を身に付けたヘップバーン

真珠は一気に大衆化した、と言っていいでしょう。大衆化に拍車をかけたのがハリウッド発の映画、つまりポップカルチャーでした。例えば、オードリー・ヘップバーン主演の『ティファニーで朝食を』です。

黒のドレスに真珠のネックレスを身に付けたヘップバーンが、ニューヨークの五番街に降り立ち、ティファニーのショーウィンドウの前でパンをかじるシーンはあまりに有名です。

このシーン、実はティファニー社のプロモーションだったと言われています。日本発の養殖真珠ブームに真っ向から対立していたのが、ティファニーやカルティエといった老舗だったのです。

彼らからすれば、日本の養殖真珠なんてエレガントでもなんでもない。本物の天然真珠こそがアクセサリーとして至高の価値があるというものでした。しかし、マーケットの支持には抗いきれませんでした。アンチ養殖を貫くことは難しく、この映画を前後して養殖真珠を使った商品を展開することになったのです。

 

ヘップバーンの背中に輝く養殖真珠のネックレスはティファニーのプロモーションとしてこれ以上ない効果を発揮したと言われています。シンプルなのに絵になる。そして、その人が持っている美を引き出す。プロモーションを超えて、真珠の魅力が詰まった、映画史に残る名場面と言えるでしょう。

日本の養殖真珠とモンロー

日本の養殖真珠といえば、ハリウッドを賑わせた女優、マリリン・モンローもネックレスを愛用していました。

1954年、戦後間もない東京を訪れたのは世界を代表するビッグカップル、ニュヨーク・ヤンキースのスター選手、ジョー・ディマジオとモンローでした。銀座でディマジオはたくさんの真珠のネックレスを買いました。もちろん、モンローにプレゼントするためです。

いつの時代も、スターは何を身に付けているのかが注目されるものです。養殖真珠のネックレスをつけてメディアの前に姿をあらわしたモンロー。その姿は写真に収められ、世界中を駆け回りました。それにより、人々は真珠のネックレスに憧れたを強めたのです。

日本の養殖技術とアメリカのポップカルチャーの力があわさり、真珠は上流階級の象徴から、もっと気軽に身にまとうアクセサリーへと変化していきました。

この夏はもっと気軽に黒のカットソーに真珠のネックレスを合わせてみる。そんなコーディネートもおすすめです。

参考文献
山田篤美『真珠の世界史』(中公新書)
トルーマン・カポーティ『ティファニーで朝食を』(新潮文庫)