真珠をもっと身近に。
ココ・シャネルが提示した、新しい女性の美
真珠を愛したデザイナー
ファッションに革命と呼べるほどの変化を起こした人は少ないものです。しかし、誰が20世紀においてもっとも影響力を持ったデザイナーかという問いの答えはすでに決まっているように思えます。「シャネル」ブランドを世に送り出した、ココ・シャネルです。
シャネルといえば、真珠を愛したデザイナーとしても知られています。1910年代に起業した女性起業家の先駆け的な存在であり、洋服だけでなく香水も含めた多角経営を成功させたという功績も見逃せません。
彼女は女性服に男性服と同じような機能性を取り入れ、颯爽とパンツを履きこなし、上下がわかれたスーツを発明しました。カーディガン風の上着と膝丈のスカートを組み合わせた「シャネルスーツ」により、女性服は窮屈だけど華麗な服から、動きやすくかつ、シンプルでアクティブな機能美もまたエレガントであると言えるようになったのです。
もう一つ、有名なのが「リトル・ブラック・ドレス」です。黒一色でまとめた、縦に落ちるようなシルエットのドレスは当時の女性たちに喝采をもって迎えられました。
彼女のファッションはゴテゴテした華美な装飾ではなく、極めてシンプルなところに特徴があります。エレガンスとはシンプルであること。社会に出ていく女性の先駆的存在であり、彼女たちの「ユニフォーム」を送り出した彼女らしい美学と言えるでしょう。
黒いドレスにもっとも映えるアクセサリーとは?
そんなココ・シャネルが最も重視したアクセサリーがありました。それが真珠です。
リトル・ブラック・ドレスはその名の通り、シンプルな黒のドレスです。当時、黒は喪服の色とされ、シンプルな黒は嫌われる色でした。しかし、シャネルの発明によって、黒の意味は変わり、エレガントな色となりました。
黒にもっとも映えるアクセサリーは何か? シャネルの答えは明確でした。白を基調とした真珠です。シャネルといえば、真珠と言えるくらい彼女は真珠を愛用していました。
「リトル・ブラック・ドレス」を着たシャネルがタバコをくわえ、斜め上を向いた有名な一枚があります。そこであしらわれているのも大量の真珠です。ところが、この真珠には何事も旧来的な価値を嫌う彼女らしい「トリック」があったのです。一体、それはなんでしょうか?
真珠で表現した、新たな時代の美意識
答えは、模造品=イミテーションパールや養殖真珠を大量に使うこと。以前、このコラムでも紹介してきたように、天然真珠は上流階級にとっては富であり、美の象徴でした。旧来的な富の象徴をそのまま身にまとうことはシャネルの美学に反することだったのです。
そこで彼女は養殖真珠であったり、イミテーションパールを積極的につかうことで、新しい美の意味を提示したのです。彼女の真珠コーディネートは天然至上主義ともいうべき、凝り固まった価値観を大きく揺るがしました。たとえ模造品や養殖であっても、自分が提示する洋服にぴったりあうなら、それでいいのではないかという彼女らしい合理的な美意識を打ち出したのです。
追い風を受けたのは、なんと日本でした。日本が世界に先駆けて開発に成功した真珠の養殖技術は古い価値観すれば「偽物」です。ところが、新しい価値観を打ち出したシャネルの登場によって「気軽にコーディネートできる優れたアクセサリー」という評価を確立することになります。真珠を「富や美、上流階級」から引き剥がし、養殖や模造品であっても日常的なアクセサリーとして気軽に使う。シャネルの美学は今も多くの人たち支持されています。
これから夏本番。シンプルなTシャツやカットソーに真珠をあわせる。そんなコーディネートもおすすめです。